前腕部には、橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)という長い骨が2本あり、手のひら(手掌:しゅしょう)を上に向けた状態でみると、前腕の親指側(外側)にあるのが橈骨で小指側(内側)にあるのが尺骨です。肘を曲げて手のひらを上に向けたり下に向けたりする動作を回旋動作といいますが、手のひらを上に向けた状態から下に向ける回旋動作を回内 (かいない)、その反対の動作を回外(かいがい)といいます。この回内のときには橈骨と尺骨が交差して「バッテン」の状態になります。逆に回外して手のひらを上に向けると橈骨と尺骨は平行に並びます。前腕骨(橈骨と尺骨)に骨折が起こるとこの回旋動作が制限されてしまいます。
手首の関節は、前腕骨の橈骨と手の付け根(前腕側)にある手根骨(しゅこんこつ)とで関節されています。この手根骨は、通常8個の骨からなり、橈骨と関節しているのは、親指側から舟状骨 (しゅうじょうこつ)、月状骨(げつじょうこつ)、三角骨(さんかくこつ)の3つの手根骨です。転んで手を衝いて骨折する場合の多くは、橈骨、尺骨、舟状骨、月状骨の何れかが骨折します。その他は非常に稀れといえます。
前腕骨のレントゲン写真
(写真は回外位で撮影したもの。橈骨と尺骨が平行に並んでいます。)
※前腕骨の下に長方形のものが写っていますがこれは固定装具です。
前腕の回外・回内運動(肘を曲げた状態で手のひらを上から下へ向ける動作を回内、下から上に向ける動作を回外という。
上の左側画像は、前腕の最大回外位でその隣りは最大回内位を示す。右の画像は回内位の写真(肘に近い方で橈骨と尺骨が交差しています)。
<右前腕骨を前面からみる略図>
前腕骨の手関節近くで骨折をした場合を前腕骨下端部骨折(ぜんわんこつかたんぶこっせつ)といいます。この骨折では、橈骨単独骨折と橈骨・尺骨の両骨骨折の場合があります。
前腕骨下端部骨折は、その骨折型によりいくつかに分類されています。以下の骨折型は、その内の代表的なものです。
1.コーレス(Colles)骨折
前腕骨下端部の骨折中では、最も頻度の高い骨折の一つです。
橈骨の骨折した末梢端(骨折部分より手首側の骨折片)が中枢端(骨折部分より肘側)の背側(手の甲と同じ側)に転位(骨がずれること)し、中枢側の骨と重なるように短縮するため、手首がフォークの柄のように曲がってしまい ます。
転位が大きいと、となりの尺骨との関節(下橈尺関節)を支えている靱帯が断裂し、尺骨が掌側(手のひら側)に脱臼することもあります。特に高齢者では尺骨の脱臼を合併するケースを多く 観ます。
幼小児では、骨が軟らかいため、折れるのではなく骨が曲がったり圧迫されたような状態(これを若木骨折といいます。)になることもあります。右下の画像は、若木骨折の一種で竹節状に骨が圧迫されたものです。これを 若木骨折の竹節状変形(竹節状骨折)といいます。X線写真では、見逃される場合もあります。
治療は、整復操作により転位を除去し、再度の転位を防ぐ固定をします。 転位が大きいときは、固定する際に手のひらを下に向けて手首を手のひら側に曲げた状態(回内掌屈位)で固定します。固定期間は、小児や若年者などで3週から4週、中高年から高齢者では6週ほど施行します。
コーレス骨折のレントゲン写真
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小児の竹節状骨折
骨折に見える線(緑矢印)は骨端線という成長軟骨です。
その下の赤矢印で示す膨らんだ部分が骨折している箇所です。
※ コーレス骨折の注意点
変形治癒 : 骨折の整復が不十分な場合、あるいは固定が不十分で再転位してしまった場合に変形したまま骨折部分が癒合してしまうことを変形治癒といいます。この様な状態では、手首を返す動作(回内・回外)特に手のひらを上に向ける回外動作が制限され、また手首の屈伸角度も制限されてしまいます。
高齢者の尺骨脱臼を伴うケースでは、同様の後遺症を残す確立が高くなります。
拘縮 : 糖尿病、膠原病など循環器や膠原線維にかかわる疾患を有している場合は、骨折時の腫れが顕著で、またその腫れの引きも遅く拘縮(関節がこわばり固まった状態)も長期にわたることが多くみられます。骨折当初より強い腫れが続くような場合は、固定期間中でも指先を軽く握り開きするなどの配慮も必要となります。また、骨折を生じた側の肩関節や肘関節も拘縮を併発することがあります。特に糖尿病などを患っている場合はかなりの確率で発生します。
長母指伸筋腱断裂 : この長母指伸筋腱とは手の親指を伸展(伸ばす)ときに作用する腱で、固定除去後のリハビリ中に断裂を生じることがあります。特に更年期以降の女性や老人でみられ、また仮骨(折れた骨を一時的に仮修復する軟骨組織)が過剰に形成された場合などでも起こりやすくなります。
断裂を生じると、母指が伸展できなくなり、母指の付け根から力無くまがった状態となります。
固定除去時の状態で手関節周囲の筋腱の痩せが顕著であったり、骨折部分の変形や膨隆が大きい場合は、母指の運動を伴うリハビリをしばらく控えた方が良いと思われます。私が握力回復や拘縮改善のリハビリを指導する場合、母指以外の他の四指による運動から始めさせ、周囲筋腱の状態が回復しある程度良好な状態と� �ってから、必要があれば母指の慎重な運動を指導するようにしています。
2.スミス(Smith)骨折
スミス骨折は、コーレス骨折とは逆の転位(骨のずれ)を生ずる骨折で、橈骨の骨折した末梢端(骨折部より手首側の骨折片)が中枢端(骨折部より肘側)の掌側(手のひらと同じ側)へ転位し、中枢側の骨と短縮するように重なります。
スミス骨折は、コーレス骨折と比較すると頻度は少ないですが、割合と多く見られる骨折です。転位の小さい骨折が多いのですが、骨の転位が大きいと鋤(すき)のような形に変形します。
治療は、 骨の転位がある場合その転位を整復し、固定を施行します。転位が大きいときは、手のひらを上に向けて手首を手の甲側へ曲げた状態(回外背屈位)で固定します。固定期間は、通常4週から6週の間になります。
※ スミス骨折でもコーレス骨折と同様の注意(上記コーレス骨折の注意点参照)を要します。
前腕(肘から手首の間)の末梢端(下端部:手首側)と中枢端(上端部:肘側)を除いた部分に骨折を生じた場合を前腕骨骨幹部骨折といいます。
前腕骨骨幹部骨折はその骨折した部位や骨折形態により、様々な症状を呈するため以下のように分類されています。
1.橈骨骨幹部骨折(橈骨単独骨折)
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橈骨の骨幹部に骨折を生じたもので、尺骨の骨折を伴わない場合を橈骨単独骨折といいます。 橈骨は、手のひらを返す運動(前腕の回旋運動で起こり、手のひらを上にする動作を回外、下にする動作を回内といいます。)の主軸となるため骨折を起こすとこの回旋運動ができなくなります。骨折の整復(折れてずれた骨を元の位置に戻す施術)が不十分であるとこの回旋運動に制限を生じる後遺症を残すことになります。
橈骨骨幹部の単独骨折では、末梢側(手首側)の骨折片が必ず回内方向へ転位します。これに屈曲転位が伴うのですが、橈骨の屈曲転位が大きな骨折では、尺骨頭(手首側の先端)が脱臼することもあり、これをガレアッジ(Galeazzi)脱臼骨折といいます。
尚、10代前半以前では、若木骨折(ポキッと折れるのではなくグニャと曲がるような骨折)となることが多く、成人の骨折よりも整 復が比較的容易 なのですが固定期間中に屈曲変形が再発することがあるため、骨折部の癒合が完了するまで注意を要する骨折です。 また、屈曲変形の大きな骨折では、成人同様に尺骨頭の脱臼を伴い、ガレアッジ(Galeazzi)脱臼骨折を生じます。
尺骨骨幹部の単独骨折は、尺骨を直接強打したときに起こる場合がほとんどで、階段などで転倒した際に前腕尺側を強打したときや空手などで相手の攻撃を前腕で防御するような場合に見られます。
骨片転位(骨のずれ)が少ないものは、予後も良好ですが、粉砕型・複合型骨折では、過剰仮骨の形成などにより、疼痛や痺れが後遺症として残ることもあります。
尚、転倒により手を突いて骨折した場合では、屈曲転位の大きな骨折を生ずることも多く、橈骨も同時に骨折する前腕両骨骨折とならない単独骨折では、尺骨の屈曲転位が大きい場合、並列する橈骨頭(肘側の先端)が脱臼し、モンテギア(Monteggia)脱臼骨折といわれる状態になります。
橈骨および尺骨の両方が折れたもので、骨片転位が起こりやすく、整復操作も難しくなるため後遺症害を残しやすい骨折といえます。
発生原因は、介達性と直達性があります。介達性では、転倒した際に手を突いて前腕にその衝撃を強く受けたとき(介達性外力)骨折を発症します。この様な介達性の外力で骨折を生じると斜骨折となり、 骨折の範囲が直達性よりも広くなります。直達性では、階段などの段差や道路の石などに前腕を強打し、屈曲転位や短縮転位を伴う横骨折となります。
骨折片の転位の状態は、円回内筋という筋肉が前腕骨に付着している部分よりも末梢で骨折しているか、あるいは中枢側で骨折しているかによって変わりますが、これは専門的になるので割愛します。尚、成長期における若木骨折では、 特有の屈曲変形を起こし、整復矯正をしても固定期間中に変形を再発することが多く、骨の癒合が完成するまでは 油断できないタイプの骨折です。しかし、整復・固定が上手くいき、屈曲変形が10゚以内の軽度に収まれば、骨癒合後の自然矯正力も期待できるので予後は良好となります。
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※ 前腕両骨骨折の注意点
変形治癒(へんけいちゆ) : 前腕両骨骨折では、転位した橈骨・尺骨の両骨をきっちり合わせることが難しく(徒手整復では、ほとんど不可能)、例え整復・固定処置がしっかりしていても、固定期間中に再転位(骨折した骨がふたたびずれてしまうこと)を起こすことも多く変形治癒に至る頻度が高い骨折といえます。転位の大きな骨折や、再転位を起こしやすい骨折では、整形外科などの手術による固定の方が良いと思われます。もしも転位した状態で骨の癒合が完了してしまうと、最悪の場合、橈骨と尺骨がくっついたまま癒合(橋状仮骨)してしまい、正常な前腕の回旋運動などに障害を残すこととなってしまいます。 また、小児の若木屈曲骨折では、固定中の再変形により変形治癒となることがあります。
偽関節(ぎかんせつ) : 骨折の形態が斜骨折など、再転位を起こしやすい場合、骨の癒合が完了しないまま、骨折端が固まってしまうことがあります。骨折部分があたかも関節のように可動してしまうため、このような後遺症を偽関節といいます。しかし、通常は偽関節になる前の骨癒合が遅れている段階(骨癒合遷延化)で、偽関節を防ぐことができるのであまりこの様な状態になることは少ないといえます。もしも偽関節を生じた場合は、手術により固まった骨折端を削り、再癒合を促すなどの処置が必要となります。
前腕骨の肘関節に近い側で骨折を生じた場合を前腕骨上端部骨折といいます。
1.橈骨上端部骨折
橈骨上端部骨折は、中高年の男性に多く見られる骨折で、そのほとんどが、転倒した際に肘や手を突いた衝撃で起こります。主に橈骨頭部骨折と橈骨頚部骨折が多く、骨片転位の少ない予後良好なものがほとんどです。 尚、手を突いて受傷した際の衝撃が強い場合は、橈骨と尺骨の間をつなぐ骨間膜(こっかんまく)が破断し、橈骨が肘側にずれると尺骨頭(尺骨の手首側の先端)が亜脱臼を起こすこともあります。
骨片転位が少ないものや整復が容易で整復後の再転位が起こらないような安定したものでは、2週から3週の副子固定を行い、2週目ぐらいから、軽い運動療法を始めます。
骨折の癒合後は、ほとんどの場合で日常動作が可能となりますが、肘の伸展に制限が残存し、数ヶ月から1年ぐらいは、肘が真っ直ぐ伸びなくなります。
橈骨頚部骨折で転位が大きい場合や、橈骨骨頭骨折で粉砕骨折、もしくは転位の大きい骨折では、手術を行う必要があります。また、その様な骨折では、肘の運動制限などの後遺症を残す場合がほとんど です。
橈骨頭部骨折
尺骨上端部骨折は、転倒したときに肘を突いて骨折する場合(直達性骨折)と、転倒して手を突いたときに、肘を過伸展して骨折する場合(介達性骨折)、あるいは肘の脱臼や捻挫に伴って起こる場合(脱臼骨折)があります。
尺骨肘頭骨折
転倒したときに肘を突いての骨折(直達性骨折)の場合は、尺骨の肘頭を骨折することが多く、比較的骨片転位しやすく、また再転位も多いため、固定の難しい骨折となります。そのため、転位のある骨折では、ギプスなどの外固定のみではなく、ワイヤーを用いた内固定を併用して行うケースが多くなります。
尺骨肘頭骨折
骨折した肘頭骨片が上腕の方へ離開している
左の尺骨肘頭骨折に対し、ワイヤーによる内固定を施行したところ
転倒した際に手を突いての骨折では、尺骨の鉤状突起骨折も見られます。
尺骨鉤状突起骨折は、主に肘の脱臼に合併して、若しくは肘関節を脱臼しそうなほどの外力を受けた際に上腕骨の関節面(上腕骨滑車)と尺骨の鉤状突起が衝突して骨折を起こします。
左画像のように、小骨片で転位のほとんど無い骨折では、安静固定2週〜3週、軽い運動療法を加えながら着脱可能な固定をさらに2週〜3週行います。
骨片が大きい骨折では、亜脱臼を起こしやすいため、6週間の安静固定と、比較的頻繁にX線観察などを行い骨折部分の状態をチェックする必要があります。
骨片が小さく、転位の少ない骨折では、比較的予後も良好で、後遺症もほとんど無く治まります。
骨片の大きい骨折では、脱臼に合併して起こる事が多いため、再脱臼や亜脱臼、関節不安定症などの後遺症を残すことも多く、骨折部の 癒合状態が悪い場合は、骨移植などによる鉤状突起再建手術を行うこともあります。
手根骨とは、橈骨の末梢関節端と手関節を構成する小さな骨で、片方の手に8個の手根骨があります。この内、手関節を構成するのは舟状骨、月状骨、三角骨の3個です。
右の写真に2本の大きな長い骨 が写っていますが、この2本の長い骨のうち、親指側の太い骨が橈骨、小指側の細い骨が尺骨で、その橈骨と関節している小石のような小さな骨(下の写真参照)が左から舟状骨、月状骨、三角骨となります。その他に、写真では三角骨と重なってしまって分かりませんが三角骨の掌側(手のひら側)にある豆状骨、真ん中の長方形の大きな骨が有頭骨その右隣りが有鉤骨、有頭骨の左隣りが小菱形骨、さらにその左隣りが大菱形骨です。
この手根骨の内、転んで手を突いたときに骨折しやすいのが、橈骨と関節を形成している舟状骨と月状骨および三角骨です。
これら、手根骨が骨折を生じても、骨片転位(骨のずれ)を起こすことが少なく、橈骨下端部の骨折などと合併すると見逃されることもあります。しかし、この手根骨は、血管分布に乏しいため、骨折により血行が遮断され、骨壊死 (こつえし)を起こすケースも見られるため、手首周囲の骨折や捻挫、打撲などを生じた場合は、1週ごとに慎重な診察を行う必要があります。
もしも、転んで手を突いた際に、橈骨や尺骨よりも手部の側に痛みを感じるようであれば手根骨の骨折を疑い、整形外科の検査を受けるなど、専門家の診察を要します。
※参考
手根骨の大まかな位置を示す図
矢印の辺りに骨の出っ張りを触知できます。
これら4つの手根骨の間に手根管というトンネル
が有り、正中神経や屈筋腱などが通ります。
※ 転倒して手を突いたあとで、これらの箇所が腫れて、強い痛みなどを感じたら、骨折を疑ってください。
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